第8回報告 オキノタユウの繁殖状況
400羽のひなが巣立ち、鳥島集団の総個体数は推定で約3,540羽に
■テキスト&写真:長谷川博(OWS会長・東邦大学名誉教授)
定年退職した翌日の2014年4月1日に八丈島に行き、装備を点検し、食料を準備して、海が穏やかになるのを待ちました。そして、7日に八丈島を出帆、8日に鳥島に到着・上陸し、5月4日まで約1ヶ月間にわたって滞在し、アホウドリ(=オキノタユウ)の繁殖状況の調査を行ないました。その結果の概要を報告します。
1. 2013-14年繁殖期の巣立ちひな数と繁殖成功率
2013年11月下旬から12月初旬に産卵数を調査し(第7回報告を参照)、今回、ひなに足環標識を装着して、巣立ちひな数を確定しました(下表)。
【表】2013-14年繁殖期の産卵数、巣立ちひな数、繁殖成功率区域 |
産卵数 |
ひな数 |
昨年比 |
繁殖成功率 |
昨年比 |
|
従来コロニー |
燕崎斜面 | 450 |
299 |
+3 |
66.4% |
−5.4 |
新コロニー
|
燕崎崖上 | 11 |
4 |
+1 |
36.4% |
−38.6 |
北西斜面 | 148 |
97 |
+17 |
65.5% |
−0.1 |
|
鳥島全体 | 609 |
400 |
+21 |
65.7% |
−4.7 |
燕崎斜面の従来コロニーでは299羽のひなが巣立ち、繁殖成功率は66.4%で、北西斜面の新コロニーでは巣立ちひな数が97羽、繁殖成功率は65.5%でした。鳥島全体では、ちょうど400羽のひなが巣立ち、繁殖成功率は65.7%でした。
繁殖成功率は昨シーズンの70.4%より下がりました。おそらく、その原因は本州南岸を低気圧が頻繁に通過し、とくに関東甲信越地方に記録的大雪をもたらした「荒れた冬」だと思われます。南岸低気圧が通過すると、鳥島では南西方向から強風が吹き込み、砂嵐や突風が発生します。その影響で繁殖に失敗したつがいが多かったと推測されます。それでも、巣立ちひな数は近年の最高を記録しました。
▲巣立ち間近なひな(2014年4月)
▲新コロニーの様子(2014年4月)
これら400羽の幼鳥に加えて、1〜6歳の若い鳥が推定で1,646羽、7歳以上の成鳥が1,492羽で、それらを合わせた繁殖期直後の鳥島集団の総個体数は約3,540羽となりました。昨年より約320羽の増加です。鳥島集団はきわめて順調に個体数を回復しています。
2. 来シーズン以降の予測
アホウドリの集団生物学的特性と単純な集団モデルから、来シーズンは約650組のつがいが産卵すると予測されます。おそらく、燕崎斜面の従来コロニーで約460組、燕崎崖上の新コロニーで約10組、北西斜面の新コロニーで約180組が産卵するでしょう。
鳥島全体の繁殖成功率が最近5年間の平均(=68.5%)程度だとすると、2015年5月には445羽のひなが巣立つと期待されます。そして、鳥島集団の総個体数はおよそ3,790羽になるでしょう。
また、今シーズンに巣立った幼鳥が繁殖集団に加わる7年後の2020-21年繁殖期には、約1,045組が産卵すると予測されます。
▲西日を受けて求愛ダンスをするつがい(2014年4月)
▲コロニーに近づく成鳥(2014年4月)