第12回報告 オキノタユウの繁殖状況

第120回(2016年3〜5月)鳥島オキノタユウ調査報告
472羽のひなが巣立ち、鳥島集団の総個体数は推定で約4,220羽に


■テキスト&写真:長谷川博(OWS会長・東邦大学名誉教授)

 2016年3月22日から、5月9日まで49日間にわたって鳥島に滞在し、オキノタユウ(学名Phoebastria albatrus, 別名アホウドリ)のひなの調査を行ないました。その結果の概要を報告します。

1. 2015-16年繁殖期の巣立ちひな数

 2015年11月下旬から12月初旬に産卵数を調査し(第11回報告を参照)、今回、ひなに足環標識を装着して、巣立ちひな数を確定しました(下表)。

【表】2015-16年繁殖期の産卵数、巣立ちひな数、繁殖成功率

区域
産卵数
ひな数
昨年比
繁殖成功率
昨年比
従来コロニー 燕崎斜面
519
316
−7
60.9%
−5.3
新コロニー 燕崎崖上
16
7
+2
43.8%
−6.2
北西斜面
217
149
−2
68.7%
−13.8
鳥島全体
752
472
−7
62.8%
−7.5

 燕崎斜面の従来コロニーでは昨シーズンより7羽少ない316羽のひなが巣立ち、繁殖成功率は昨シーズン5.3ポイント低い60.9%でした。北西斜面の新コロニーからは、昨シーズンより2羽少ない149羽のひなが巣立ち、繁殖成功率は68.7%で、昨シーズンより13.8ポイント低下しました。燕崎崖上の新コロニーからは、昨シーズンより2羽多い7羽のひなが巣立ちました。

▲写真1:鳥島南東端にある従来コロニー(2016年3月30日)
ここからは316羽のひなが巣立った


▲写真2:鳥島北西斜面の中腹にある新コロニー(2016年3月23日)
ここからは149羽のひなが巣立った


 結局、鳥島全体での巣立ちひな数は、昨シーズンより7羽少ない472羽でした。繁殖成功率は62.8%で、昨シーズンより7.5ポイント低下しました。このやや低い繁殖成功率のため、残念ながら、ひな数は期待していた500羽以上にはなりませんでした。

 これら472羽の幼鳥に加えて、1〜6歳の若い鳥が推定で約1,910羽、7歳以上の成鳥が約1,840羽で、それらを合わせた繁殖期直後の鳥島集団の総個体数は約4,220羽となりました。昨年より約320羽の増加です。鳥島集団は順調に個体数を回復しています。

 

2.繁殖成功率とエル・ニーニョ現象との関係は?

 昨年の春から今年の春まで、大規模なエル・ニーニョ現象が起こり、日本列島は暖冬にみまわれました。このような年には冬期の季節風の吹き出しが弱く、伊豆諸島南部海域は低圧部になります。そして、時々、南岸低気圧が発達しながら東進し、強い冬型の気圧配置となって寒気を呼び込みます。その結果、温度や風が激しく変動する“荒れる冬”になります。

 実際、2016年1月18日には低気圧(988 hPa)が急速に発達しながら本州南岸を北東に進んで、北海道の東の海上に達しました(968 hPa)。このとき、関東甲信地方は大雪になり、日本各地は大荒れになりました。その後、強い冬型の気圧配置になって寒気が流れ込み、1月24日に西日本で記録的な低温、奄美大島名瀬で115年ぶりの降雪、沖縄本島北部で霙が観測されました。また、1月29日から30日にも再び南岸低気圧が発生・通過しました。

 オキノタユウの孵化期は12月下旬から1月なので、誕生したばかりのひなが低気圧による強風や大雨の影響を受けたことは十分に考えられます。“穏やかな冬”だった昨シーズンと較べて(第10回調査報告を参照)、繁殖成功率が7.5ポイントも低下した原因の一つは、激しく変動した気象現象だったにちがいありません。

 しかし、過去の大規模なエル・ニーニョが起こった1982年春〜83年夏と1997年春〜98年春の年の繁殖成功率は、それぞれ50.7%(その前の年33.3%、後の年49.2%)、67.0%(前年51.1%、後年67.1%)で、エル・ニーニョの年には繁殖成功率が低いという関係は見いだせませんでした。当時、好適な営巣環境を造成するために従来コロニー保全管理工事が実施されていたので、エル・ニーニョの影響が現れなかった可能性も考えられます。また、もし、エル・ニーニュが繁殖成功率に影響を及ぼすとすれば、来シーズンは繁殖成功率が元の水準の70%前後に回復するはずです。

▲写真3:従来コロニーで観察された37歳の成鳥(2016年3月27日)
足環(白029)から1979年3月20日に足環標識された22羽のひなのうちの1羽であることがわかる

 

3. 来シーズン以降の予測

 オキノタユウの集団生物学的特性と単純な集団モデルから、来シーズン(2016-17年繁殖期)の繁殖つがい数は約815組と予測されます。おそらく、燕崎斜面の従来コロニーで約540組、燕崎崖上の新コロニーで約20組、北西斜面の新コロニーで約255組が産卵するでしょう。そして、鳥島全体の繁殖成功率が67%程度(最近5年間の平均は67.6%で、10年間の平均は68.7%)だとすると、約545羽のひなが巣立ち、鳥島集団の総個体数はおよそ4,570羽になるでしょう。

 さらに、2017-18年繁殖期には約865組のつがいが産卵し、約580羽のひなが巣立ち、総個体数は約4,930羽になり、2018-19年繁殖期には約930組が産卵、約625羽が巣立ち、約5,330羽になるでしょう。そして2019-20年繁殖期には約1000組が産卵すると予測されます。ぼくが目標としてきた「5,000羽」に到達するまで、もうすぐです。

▲写真4:着陸寸前の成鳥(2016年3月30日)


▲写真5:クロアシオキノタユウのひな(2016年4月1日)
鳥島のクロアシオキノタユウ集団も順調に成長していて、今シーズン、2681羽のひなが巣立った

長谷川博
OWS会長
東邦大学名誉教授
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