第11回報告 オキノタユウの繁殖状況
第119回(2015年12月期)鳥島オキノタユウ調査報告
昨年より71組多い752組のつがいが産卵し、鳥島集団は“超順調”に増加
■テキスト&写真:長谷川博(OWS会長・東邦大学名誉教授)
オキノタユウ(学名Phoebastria albatrus, 別名アホウドリ。ぼくは39年間にわたってこの鳥とつきあってきて、もう“アホウドリ”とは呼びたくなくなり、オキノタユウと呼ぶことにしました)
2015年11月16日から12月14日まで、伊豆諸島鳥島で繁殖するオキノタユウの産卵状況を調査しました。その結果を下表にまとめました。
【表】2015年12月の産卵状況。 繁殖つがい数とカウント数を示す
従来コロニー |
新コロニー |
鳥島全体 |
||
燕崎斜面 |
燕崎崖上 |
北西斜面 |
||
繁殖つがい数(組) | 519 |
16 |
217 |
752 |
昨年比 |
+31 |
+6 |
+34 |
+71 |
増減率 |
+6.4% |
+60.0% |
+18.6% |
+10.4% |
カウント数(羽) 平均 | 778.0 |
40.6 |
409.1 |
1229.0 |
昨年比 |
+54.7 |
+9.6 |
+90.4 |
+147.4 |
増減率 |
+7.6% |
+31.0% |
+28.4% |
+13.6% |
鳥島全体の繁殖つがい数は、昨シーズンより71組多い752組で、約10%の増加でした。燕崎斜面の従来コロニー(写真1)では519組で、昨シーズンから31組、6%の増加、デコイと音声装置を利用して形成した北西斜面の新コロニー(写真2)では217組で、昨シーズンより34組、19%の増加でした。また、燕崎崖上の新コロニー(写真3)では、昨シーズンより6組増えて、16組でした。
▲写真1:燕崎斜面の従来コロニー(2015年12月2日) |
▲写真2:北西斜面の新コロニー(2015年12月6日) |
▲写真3:燕崎崖上の新コロニー(2015年11月26日) |
鳥島全体でカウントされた個体数は平均1,229羽で、昨シーズンより約147羽増え、増加率は約14%でした。それぞれの区域でカウントした個体数の平均は、燕崎斜面で778羽(昨年比+55羽、+8%)、北西斜面409羽(+90羽、+28%)、燕崎崖上では41羽(+10羽、+31%)でした。また、今シーズンのカウント数の最大は1,325羽で、昨年より177羽も増えました。
燕崎の崖上には火山灰が堆積した平らな場所が広がり、そこにハチジョウススキやイソギク、ラセイタソウがごく疎らに生育しています。そして、それらのわずかな草むらの中や側でオキノタユウが営巣しています(写真3)。この場所は強風の影響(砂嵐)を受けやすく、これまで繁殖つがい数や繁殖成功率が大きく変動しました。昨シーズンは1組減少し、今シーズンは6組増加しました。おそらく、今シーズンはススキの生育がよく、比較的良好な営巣場所が供給されたためでしょう。
今後の予測
鳥島全体での繁殖つがい数は、予測した740組よりも少し多い752組でした。最近の3年間で、つがい数は538組から752組へと214組、約40%も増加しました。これは年率に換算すると平均11.8%という驚くべき増加率で(過去36年間の平均増加率は年率7.6%)、“超順調”な増加といえます。この3年間に繁殖年齢(平均7歳)に達した個体は、主に2007年から2009年に巣立ちました。当時の繁殖成功率は67.7%〜73.2%、平均70.5%と高かったので、比較的たくさんの個体が生き残り、繁殖集団に加入したと考えられます。
2015年6〜7月に従来コロニーの保全工事(砂防と植栽)を行ないました。もし、今シーズンの繁殖成功率が昨年並みの70%程度だと仮定すると、2016年5月に約525羽のひなが巣立つと期待されます。そして、鳥島集団の総個体数は推定で約4,275羽になるでしょう。
さらに、2010年から2013年に巣立ったひなが順調に成長して、これから繁殖年齢に達すると仮定すれば(この期間の繁殖成功率はやや低下して、64.4%〜73.3%、平均69.3%)、2016-17年繁殖期には繁殖つがい数が約820組、2017-18年繁殖期には約870組、2018-19年繁殖期には930組、2019-20年繁殖期には約1,000組になると予測されます。
そして、鳥島集団の総個体数は2年後の2018年5月に、まちがいなく「5,000羽」に達します。これは、1999年5月に1,000羽に到達して以来、ずっと目標にしてきた数です。そこまで、もう少しになりました。
▲写真4:コロニーの上空を飛翔する若い鳥(2015年12月6日) |
▲写真5:頂上部の近くの斜面で営巣するクロアシオキノタユウ(2015年11月26日) |