第13回報告 オキノタユウの繁殖状況

第121回(2016年11〜12月)鳥島オキノタユウ調査報告
今シーズン、837組のつがいが産卵し、鳥島集団は順調に増加


■テキスト&写真:長谷川博(OWS会長・東邦大学名誉教授)

 2016年11月16日から12月10日まで、伊豆諸島鳥島でオキノタユウの産卵状況を調査しました。その結果の概要を下表にまとめました。

【表】2016年11月の産卵状況。繁殖つがい数とカウント数を示す。

 
従来コロニー
新コロニー
鳥島全体
燕崎斜面
燕崎崖上
北西斜面
繁殖つがい数(組)
536
27
274
837
昨年比
+17
+11
+57
+85
増加率
+3.3%
+68.8%
+26.3%
+11.3%
カウント数(羽) 平均
802.0
53.7
478.0
1334.2
昨年比
+24.0
+13.1
+68.9
+105.2
増加率
+3.1%
+32.3%
+16.8%
+8.5%

 鳥島全体の繁殖つがい数は少なくとも837組で、昨シーズンより85組多く、約11%増加しました。繁殖年齢に達している個体のうち、ある年に実際に繁殖する個体の割合はおよそ80%と見積もられ、残りの20%は再婚活動中だったり、体調不十分だったりして、繁殖を中止しています。したがって、今シーズンの潜在的な繁殖つがい数は、すでに1000組に達していると推測されます。

 鳥島には3つの区域にコロニーがあります。そのうち、燕崎斜面の従来コロニー(写真1)では536組が産卵しました。昨シーズンからは17組、3.3%の増加でした。ここではカウント数もわずかな増加(3.1%)に留まりました。このコロニーは飽和状態に近づいていると考えられます。

▲写真1:燕崎斜面の従来コロニー(2016年11月30日)


 一方、デコイと音声を利用して形成した北西斜面の新コロニー(写真2)では274組で、57組、約26%の増加でした。このコロニーは、2004年に確立してから12年間で、繁殖つがい数が4組から274組になり、全体の3分の1を占めるまでに急成長を遂げました。この理由は、従来コロニーから巣立った若い個体が飽和状態に近づいている従来コロニーを避けて、空いているこの新コロニーに移入しているためです。

▲写真2:北西斜面の新コロニー(2016年12月1日)


 また、燕崎崖上の新コロニー(写真3)では27組で、11組、約39%も増加しました。この区域は大部分が裸地となっていて、ハチジョウススキやイソギク、ラセイタソウがごく疎らに生育しています。オキノタユウは主に草丈の高いハチジョウススキの草むらの中や側で営巣しています。ここでは植生も営巣個体も強風や突風の影響を受けやすく、これまで繁殖つがい数や繁殖成功率が大きく変動しました。しかし、昨シーズンは6組も増加し、今シーズンも11組と大幅に増加しました。おそらく、昨シーズン以来、ハチジョウススキの生育がよく、比較的好適な営巣場所が供給されたためでしょう。

▲写真3:燕崎崖上の新コロニー(2016年11月19日)


 鳥島全体でカウントされた個体数は平均1,334羽で、昨シーズンより約105羽増え、増加率は8.5%でした。それぞれの区域でカウントした個体数の平均は、燕崎斜面で802羽(昨年比24羽、3%の増加)、北西斜面478羽(69羽、17%の増加)、燕崎崖上では54羽(13羽、32%の増加)でした。また、カウント数の最大は1,396羽で、昨年より71羽増えました。

 

今後の予測

 鳥島全体での繁殖つがい数は、昨シーズンに予想した820組よりもやや多い837組でした。最近の4年間で、繁殖つがい数は538組から837組へと299組、約56%も増加しました。これは年率に換算すると平均10.8%で、驚くべき増加率です(過去37年間の平均増加率は年率7.67%)。鳥島集団は非常に順調に増加しています。

 この4年間に繁殖年齢に達した個体は、2007年から2010年に巣立ちました。当時の繁殖成功率は67.7%〜73.3%で、平均して71.2%と非常に高く、その結果、たくさんのひなが巣立ちました。それらの幼鳥が生き残って繁殖年齢に達し、繁殖つがい数が急増したのです。それ以降の繁殖成功率も68%程度に維持され、大幅な低下はなかったので、来シーズンの繁殖つがい数は約905組になり、その次のシーズンには1000組に近づくと予測されます。

 また、今シーズンの繁殖成功率が最近5年間の平均の約68%だと仮定すると、2017年5月に約565羽のひなが巣立ち、鳥島集団の総個体数は約4,650羽になると推定されます。さらに来シーズンには、約600羽のひなが巣立ち、総個体数は約5,000羽になると予想されます。

▲写真4:新コロニーで卵を抱いている成鳥(2016年12月1日)


▲写真5:新コロニーの縁に立つクロアシオキノタユウ(2016年12月1日)

長谷川博
OWS会長
東邦大学名誉教授
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