第14回報告 オキノタユウの繁殖状況
第122回(2017年3〜5月)鳥島オキノタユウ調査報告
533羽のひなが巣立ち、鳥島集団の総個体数は推定で約4,615羽に
■テキスト&写真:長谷川博(OWS会長・東邦大学名誉教授)
2017年3月29日から、5月8日まで鳥島に滞在し、オキノタユウ(学名 Phoebastria albatrus, 別名アホウドリ)のひなの調査を行ないました。その結果の概要を報告します。
1. 2016-17年繁殖期の巣立ちひな数
2016年11月下旬から12月初旬に産卵数を調査し(第13回報告を参照)、今回、4月下旬にひなに足環標識を装着して巣立ちひな数を確定しました(下表)。
【表】2016-17年繁殖期の産卵数、巣立ちひな数、繁殖成功率
区域 |
産卵数 |
ひな数 |
昨年比 | 繁殖成功率 |
昨年比 | |
従来コロニー | 燕崎斜面 | 536 |
307 |
−9 | 57.1% |
−3.6 |
新コロニー | 燕崎崖上 | 27 |
20 |
+13 | 74.1% |
+30.3 |
北西斜面 | 274 |
206 |
+57 | 75.2% |
+7.2 | |
鳥島全体 |
837 |
533 |
+61 | 63.7% |
+0.9 |
燕崎斜面の従来コロニーから、昨繁殖年度より9羽少ない、307羽のひなが巣立ち、繁殖成功率は昨年度より3.6ポイント低い57.1%でした。従来コロニーでの繁殖成功率が60%を下回ったのは2005年度以来で、おそらく、その原因は昨年の秋に発生した泥流でしょう。泥流は従来コロニー東地区の西縁に土砂が盛り上がるほど堆積させました。その堆積土砂の表面から強風や突風によって砂が吹き飛ばされ、保育中の親鳥に当たって、親鳥に巣を放棄させたのではないかと推測されます。
北西斜面の新コロニーからは、昨年度より57羽も増えて、206羽のひなが巣立ち、繁殖成功率は75.2%で、昨年度より7.2ポイント上昇しました。燕崎崖上の新コロニーからは、昨年度より13羽多い、20羽のひなが巣立ち、繁殖成功率は大幅に改善して、74.1%でした。
▲写真1:鳥島燕崎斜面の従来コロニー(2017年4月3日) |
▲写真2:鳥島北西斜面の新コロニー(2017年4月26日) |
結局、鳥島全体での巣立ちひな数は、昨年度より61羽も増えて、ついに500羽を超え、533羽でした。繁殖成功率は63.7%で、ほぼ昨年度並みでした。
これら533羽の巣立ち幼鳥に、1〜6歳の若い鳥推定約2,030羽、7歳以上の成鳥約2,050羽を合計した繁殖期後の鳥島集団の総個体数は、推定で約4,615羽となりました。昨年より約395羽の増加です。鳥島のオキノタユウ集団は非常に順調に個体数を回復しています。
2. 来年度以降の予想
鳥島集団のカウント数は2010繁殖年度から急増し、最近7年間の平均増加率は毎年約10%でした。この主な要因は、営巣地保全管理工事の補完作業を実施した結果、2007年度から2009年度まで繁殖成功率が70%以上に維持され、たくさんのひなが巣立ったからです。このカウント数の急増に対応して、2013年度から繁殖つがい数が急増し始め、最近4年間の平均増加率は毎年12%近くになりました。
巣立った幼鳥は3〜4年後から鳥島に帰り始め、平均して約7歳から繁殖を開始します。巣立ち後の生き残り率はほぼ一定だと推測されるので、ごく大まかに言えば、繁殖成功率の良否が3年後のカウント数に影響を及ぼし、さらにその4年後の繁殖つがい数の傾向を決めます。
2010年に小規模な泥流が発生して繁殖成功率が64%に低下しましたが、その後、砂防・植栽工事が実施されて、2011年度から2014年度までの4年間、繁殖成功率は平均して69%に維持されました。したがって、これから数年間、繁殖つがい数は毎年10%前後で増加すると予想されます。仮に毎年9%で増加するとしても、来年度は約910組になると予想されます。地区別にみると、燕崎斜面の従来コロニーでは約550組、燕崎崖上の新コロニーで約30組、北西斜面の新コロニーで約330組が産卵すると予想されます。そして、鳥島全体の繁殖成功率が63%程度(最近2年間の平均は63.3%)だとすると、来年5月には約575羽のひなが巣立ち、鳥島集団の総個体数は5,025羽になり、ぼくが個人的に目標としてきた「5,000羽」に到達するでしょう。これまでの予測より1年早く目標を達成することができそうです。
▲写真3:求愛ダンスをする成鳥のつがい(2017年4月3日) |
▲写真4:飛翔方向を急転換している成鳥 |
▲写真5:ひなへの給餌(2017年4月5日) |